定期考査の試験監督をしているときに、生徒たちが受けている現代文の問題文に、福岡伸一の「ルリボシカミキリの青」がありました。なんとなく私も読み始めながら、つい「まったく、そうだな」と。”好きなことを好きであり続けることは、君を飽きさせず、静かに最後まで励まし続ける”。たしか、こんな言葉でした。
自由な時間もなく、お金もなく、将来が見えなかったとき。そんな私を、当時、静かに励まし続けたのは、一枚の描きかけの絵でした。ままならない日々だけど、この絵の完成を一番楽しみにしているのは自分であり、明日もこの続きを描くんだ、と思うことが支えになりました。現実は、もちろん、その絵がすごい傑作になったというわけではなく、地元の公募展会場の中、たくさんの入選作品の中の一つとして、ひっそりと展示されたのでした。ただ、描くことで慰められ、自己を確認し、励まされた日々。絵を描くことは、私にとってそういうものなのだと思いました。